あぁ なんてこった

それは4月20日の事
僕は天下茶屋の稽古場へ重い足を引きずりながら向かっていました・・・

「ふぅ 行きたくないなぁ」
いつもだったら皆と会えるドキドキと、楽しい練習をすることのワクワクで
ポルカを踊りながら稽古場に向かっている僕ですが最近は様子が違います
何故なら今週末に控えた本番へのストレスが極限まで肥大し稽古場がとても荒んでいるんです

いつものように一番に稽古場に入り皆を小鳥の様に震えながら待ちます
一人二人と増えて行きますが皆 挨拶一つ無く黙って椅子に座り台本を開いています
沈黙の緊張に耐えかねた心の弱い僕が叫びだす直前に
演出の岩橋さんが入口の横の窓ガラスを蹴破って入っていらっしゃいました
あぁ今日も右手に台本、左手には芋焼酎4リットル瓶、唇には生肉、背中には牛頭天王を背負っています
あぁ、あぁ波乱の予感

皆を一人づつ丁寧に睨みつけたあと岩橋さんはこう言いました

「よぉ〜し、じゃあ頭から通すぞぉ〜」

地獄の始まりです


最初の犠牲者は通し稽古が始まって5秒後に
岩橋さんの演出机の横に常備してある10キロの鉄アレイを投げつけられた熊谷さんでした
 【(注)もっとも普段まったく運動をしない岩橋さんが10キロの鉄アレイを離れた相手にぶつけられるわけがありません
     いつもフルスイングで投げた後に肩を脱臼させていました】
息を荒げながら岩橋さんは怒鳴ります
 「エロい演技してんじゃねぇぞ! この地下アイドルがぁ!」
この酷い言われように耐えかね顔をふせていた熊谷さんがキッと顔をあげると
目のまわりに大きな青あざと鼻から滝のような血が!
何てこった・・・
毎日鉄アレイを熊谷さんに投げつけることで岩橋さんに筋肉がついてきてやがる・・・
凍りついて動けない僕の背中から氷のように冷たい言葉がさらに飛びます
 「私のタツ君に色目を使うからよ」
 「そうよねぇ いい気味〜フフフフ」
 「ほほほほっ!」
振り返るとホンダ姉さんとみりっこが腰に手をあてて高笑いをしています
いやあれはホンダ姉さんとみりっこじゃない、あれは・・・魔女だ
そんな恐ろしい顔をして睨みあう女性達を見ながらタツ君はニヤニヤしています
なんなのタツ君?・・・タツ君・・・キミはサークルクラッシャーか何かなの!?

そしていつもだったらこんな時に場の雰囲気を和らげるムードメーカー的存在であった
有馬ハルは虚ろな目をして
 「なんて野蛮な物言いだ とても人間とは思えない まるでゴリラだ・・・・」
と同じ言葉を呟くのみ 

 
ふと気付くとそんな僕らを冷やかに見下ろす存在が・・・あぁズミ君 何だその落ち着き様は
君は本当にハタチなのかい?


絶望に耐えかね耳をふさいだ僕でしたがそこに美しい音色が・・・
あぁこれは、この美しい音色は福田さんお得意の口笛だ
皆が音のする方を見ると福田さんが机の上に仁王立ちして言いました
 「偉そうだねぇ岩橋君 確かに君はオリゴ党では一番の演出家かもしれない
   ただ・・・大阪市じゃあ二番目だ!」

岩橋さんは目を真っ赤にして叫びます
 「なにぃ じゃあ一番は誰だっていうんだっ!!」
福田さんは黙って自分を指さし
岩橋さんは黙って鉄アレイです


あぁ!救われない!
こんな僕らを誰か救ってはくれまいか!?
最近自分の事を天の使いだと言い張り
アルカイックスマイルを浮かべているノンノン以外で誰か救ってはくれまいか!?
壊れちゃったのかいノンノンよ!

・・・いや待てなんだかノンノンの後ろから光が・・・眩しい・・・ 
本当に・・・天の使いに?
・・・ノンノンから後光がっ!

これはまるで丁稚どんの電動車椅子のライトがハイビームになっているかのようじゃないかっ!

丁稚どんっ切ってっ
それ切って! 眩しいから!
なんか間違ってライトついちゃってるから!




あぁ・・・救われない。






                             だいすけ